久遠の空 表紙絵妄想第20巻

第20巻 表紙絵妄想



それはとても寒い冬の日だった。
一番隊の部屋に、ひとりの隊士がやってきた。

「あの〜」
部屋の障子を開けて、その人物は部屋の中に
声をかけた。
「ん?」
障子から一番近くにいた相田が答えた。
「何だ?」
相田は訪問者の顔をまじまじと見た。
「沖田先生の隊って、こちらですよね?」
やってきた隊士は相田に聞いた。
「あぁ、沖田先生の一番隊の部屋はここだぜ」
相田は頷いた。

訪問してきた隊士は、部屋の中へ入ると
畳の上に正座をし、まっすぐ相田の目を見た。

「あのっ、沖田先生って衆道の方なんですか?」



「はぁ?」
いきなりの質問に、相田は固まった。
「だだだだって、今、そこの階段のところで…」
身振り手振りで口をぱくぱくと動かす彼の
言葉を聞き、相田は思い浮かべる。
隊士部屋である北集会所の前には階段がある。
「そこで何だっていうんだよ?」
相田はあぐらをかいて、ひざの上にひじをつき、
あごを乗せた。

彼は慌ててこう叫んだ。
「沖田先生が、かわいらしい隊士の方と
仲睦まじくしてて…!」

その隊士が言うにはこうだ。
総司が清三郎と階段に並んで座っていた。
清三郎が自分の刀を抜き、総司に見せた。
総司はそれを手にとり、少し見つめた後、
何事かを清三郎に言い、刀を握らせた。
清三郎は両手で柄を握ると、
すっくと立ち上がり、剣を振った。
それを見て総司も立ち上がり、
柄を握った清三郎の手をその上から
包み込むように右手で握り、
左手は清三郎の肩を抱き、
真剣なまなざしで剣先を見つめていた。
あの様子は尋常じゃないと。

寒い季節。
細雪が降っていた。
頭に、肩に、握る手に舞い落ちる雪。
隊士部屋に入って話せばいいのに、
二人は外で身を寄せ合っている。

「…お前、いつ入隊したんだ?」
相田が彼に問うた。
「わ、私は去年の秋の終わりごろです」
彼はそう答えた。
「じゃあまだ入隊してそんなに経ってねぇんだな」
「はい・・・」
相田は体をゆすってあぐらの体制を整えなおした。
「あのな、そんなの日常茶飯事なんだよ」


たいてい、いつでもどこでもいちゃいちゃだし、
どんなこともお互いに相談してるみてぇだし。
少しの空き時間でも二人でどこか消えるし。
休みの日も二人で甘味屋巡りして。
神谷は外にオンナを囲ってたって、しまいにゃ
沖田先生、だ。
いくら一番隊では公認の仲だって言ったって、
目の前で仲睦まじくしてるところを
毎度毎度見せ付けられてみろ。
一番隊の任務は辛いって皆言うけどよ、
辛いのは任務だけじゃねぇんだ。


相田はここまで一気にしゃべると、
相手の顔を見た。
なぜか相手の視線が、相田の後ろに
向けられていた。
振り向くと、相田の後ろには
部屋に居た一番隊の隊士が全員座っていた。

はぁ〜。

揃って、溜息を漏らす。
訪問してきた隊士は、相田の話が
事実なのと理解した。

「…なんか俺、むなしくなってきた」
「俺もだ」
「なぁこれから飲みに行かねぇか?」
「そうだな、そうするか」
相田を含め、その場に集まった一番隊の
隊士たちは口々にそう言った。
「よし行くぞ。ついでだ、オマエも来い」
訪問してきた彼は、相田に襟を掴まれた。
「え、あの、ちょっと…」
「うるせぇ、つべこべ言うな。
元はといえば、オマエが持ってきた話だろ」
「いやその、私はこれから巡察が…」
慌てる彼を引き摺り、沖田と神谷を除いた
一番隊の面々は、山門から出て行った。



一番隊の隊士たちは酒を飲んで
寒さと憂さを晴らして帰営した。
くだんの彼は、巡察をすっぽかした罪で、
組長の原田に散々絞られたということだ。









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