久遠の空 表紙絵妄想第15巻

第15巻 表紙絵妄想



私は、神谷清三郎。


父と兄を無くしてから、
新選組に籍をおくようになってから、
私の名前は神谷清三郎になった。

富永セイと呼ばれなくなって久しい。

呼んでくれる人は今でもいるけど、
それは日常生活の範囲ではない。

お馬で休暇のとき。
知り合いの御典医の元を訪れているとき。

そんなときだけ。

神谷清三郎として必要とされているときが、
今の私の至福でもあるけれど。


父上につけていただいた名前を
呼んでもらえないのは寂しい。


でも、その名を呼んでもらえるのは、
私が女子に戻った時だけ。


私が、武士でないときだけ。

沖田先生のお側にいないときだけ。


私が沖田先生のお側にいられるのは、
ひとえに私が武士であるときだけ。

あの方は私を女子としてみてはくださらない。
私は沖田先生が好きなのに、
この想いを髪一筋ほども伝えてはいけない。

手の届くほどに
息のかかるほどに
近くにいるのに。


武士として見てくださって
いるのを喜んでいる自分がいる。


女子として見てくださらないのを
悲しんでいる自分がいる。


そして、その狭間で苦しんでいる
自分がいる。


いっそのこと。
この胸に抱いている花の咲く代わりに。
彼岸まで行ってしまおうか。

私の中で、神谷清三郎と富永セイの
均衡が崩れる前に。


沖田先生の前で、
武士でいられなくなる前に。









inserted by FC2 system