第6巻 表紙絵妄想修羅の道に、花が咲いた。 その名を、神谷清三郎。 *********************************************** 池田屋事件。 元治元年6月5日。 月も今宵の大捕り物に身をひそめる。 浅葱色の死神が鴨川の西を 血に染めた。 一階を永倉新八と藤堂平助、 二階を局長近藤勇と沖田総司、神谷清三郎。 それぞれが強襲し、近藤が加勢しに階下へ降り、 沖田と神谷が二階を制圧した。 その最中、沖田が倒れ、神谷がひとりで 二人を斬り、一人を捕縛。 神谷のその戦い振りを見た浪士は、 「新選組に阿修羅あり、花の様な鬼の姿かたちなり」 刀を扱う様、鬼神の如しと表した。 ********************************************** その修羅どもが、鬼神どもが 今日も巡察で町を練り歩く。 その中に神谷もいた。 まるで女子のような顔つきで、 華奢で背も小さくて、 元服もまだの前髪姿で。 いったいどこに修羅の影が見えると いうのだろうか。 突然、遠くから笛の音が聞こえた。 呼び子だ。 同志がどこかで危険を知らせている。 はっと顔を上げた神谷。 その瞳は、もうさきほどの神谷ではない。 鬼の瞳。 「沖田先生」 横に居る、同じく鬼の瞳の男に声をかける。 「ええ、神谷さん」 沖田は刀の鞘に手をかけた。 ふたりして同じ目をして、駆け出した。 ****************************************************** 修羅の道に花は咲かぬものであったはず。 修羅の通ったあとには一本の草木も生えぬ道。 そこへ咲いた、一輪の花。 血まみれの道に、ただ一輪。 触れることも摘むことも許されぬ。 鬼と同じ香りの花。 命がいらねばさぁどうぞ。 その花に、触れてごらんなさいよ。 |