久遠の空 表紙絵妄想第6巻

第6巻 表紙絵妄想



修羅の道に、花が咲いた。
その名を、神谷清三郎。

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池田屋事件。
元治元年6月5日。
月も今宵の大捕り物に身をひそめる。
浅葱色の死神が鴨川の西を
血に染めた。

一階を永倉新八と藤堂平助、
二階を局長近藤勇と沖田総司、神谷清三郎。
それぞれが強襲し、近藤が加勢しに階下へ降り、
沖田と神谷が二階を制圧した。
その最中、沖田が倒れ、神谷がひとりで
二人を斬り、一人を捕縛。
神谷のその戦い振りを見た浪士は、
「新選組に阿修羅あり、花の様な鬼の姿かたちなり」
刀を扱う様、鬼神の如しと表した。

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その修羅どもが、鬼神どもが
今日も巡察で町を練り歩く。
その中に神谷もいた。
まるで女子のような顔つきで、
華奢で背も小さくて、
元服もまだの前髪姿で。
いったいどこに修羅の影が見えると
いうのだろうか。
突然、遠くから笛の音が聞こえた。
呼び子だ。
同志がどこかで危険を知らせている。
はっと顔を上げた神谷。
その瞳は、もうさきほどの神谷ではない。
鬼の瞳。
「沖田先生」
横に居る、同じく鬼の瞳の男に声をかける。
「ええ、神谷さん」
沖田は刀の鞘に手をかけた。
ふたりして同じ目をして、駆け出した。

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修羅の道に花は咲かぬものであったはず。
修羅の通ったあとには一本の草木も生えぬ道。
そこへ咲いた、一輪の花。
血まみれの道に、ただ一輪。
触れることも摘むことも許されぬ。
鬼と同じ香りの花。
命がいらねばさぁどうぞ。


その花に、触れてごらんなさいよ。









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