久遠の空 久遠の空 拍手ありがとうございます。2009年3月拍手文


 冷たい空気を切り裂いて、一台の車が高速を駆け抜ける。
 朝日はまだ東の空から僅かに顔を出したばかりで、空は薄暗い。

 が、車中はそんなことをものともせずに、熱気と喧騒でいっぱいだった。
 「ねえねえ総ちゃん、何に乗る?」
 「何でもいいよ、セイちゃんの好きなのに乗ろうよ」
 「えーっとねえ、じゃあねえ、スモールワールド!」
 「あはは、セイちゃんらしい」

 「うるせえぞ! 少しは静かに出来ねえのか!」
 土方が運転席から後ろへと怒鳴りつける。
 「「はーい」」
 総司とセイは声を揃えて返事をした。しかしまたすぐにわいわいと喋りだす。
 「てめえら…」
 今日一日はずっとコレなのかと、土方はハンドルを握りながらため息をついた。
 
 

約束のディズニーランド

 
 
 セイと総司は車の窓ガラスにべったりと張り付いて、シンデレラ城が空高くそびえたつのと、 ビッグサンダーマウンテンの赤い岩肌がどんどん近くなってくるのを凝視していた。

 土方はバックミラーにちらりと目をやって、朝から何度ついたかわからないため息をまたひとつ吐き出した。
 バレンタインデーにセイを泣かせてしまった罰として、土方はディズニーランド行きを約束させられた。
 今日はランドのある県で公立高校の試験がある。その日のランドは人がほとんどおらず、ガラガラなのだ。
 そして今年は偶然にも、セイたちの通う小学校の創立記念日とかち合ったので、 ぜひその日に約束を果たそうということになったのだ。


 高速のランプを下り、広い駐車場へと入る。
 土方が車を止めると子供たちはバタンとドアを開けて外へ飛び出した。
 「おい、危ねえぞ」
 ドアにロックをかけると、土方は総司とセイの襟を素早く掴んだ。
 「いいか、浮かれるのは構わねえが、人様の迷惑なるようなことだけはするなよ。もしやりやがったら即帰るからな」
 「「はーい」」
 土方は厳しい目つきで二人を睨みつけたが、満面の笑みで返された。


 正面入り口から中に入ると、土方はコートの内ポケットから小さな冊子を取り出した。
 連れて行くことを了承したものの、土方は生まれてこの方、ディズニーランドになど片手で余る程度しか来ていない。 高校生の時の学校の校外学習(という名の遠足)と、大学生の時の知り合いの知り合いが主宰するサークルのデートの穴埋めだ。 どちらも行きたくなかったが、それぞれ出席日数(皆勤賞)と、知り合いの知り合いに拝み倒されて(人数合わせ)と、断りきれなかった。
 どちらの時も、中に入ったはいいが、どのアトラクションに入ったかなどまったく覚えていない。
 なので今回、連れて行くのはともかく、どうしたらいいのかわからなかった。

 そこで白羽の矢が立ったのが藤堂平助である。
 藤堂も近藤の道場に昔から通っている。大学を卒業してから玩具会社に勤め、時々子どもの練習時間に現れて稽古をつけた後、
会社のサンプルを配ったりしている。
 そんな藤堂は子どもが喜ぶ遊びに詳しく、土方からランド行きについての相談を受けるとすぐにスケジュールを設定した。
 「この通りに行動すれば絶対に総司もセイちゃんも満足するからね!」
 と藤堂が自身有り気に手渡したのがこの“藤堂特製ディズニーランドのしおり”なのである。

 ディズニーのキャラクターが印刷された表紙を碌に確かめもせずに冊子を開き、中を見てみる。
 (まずはじめに行くところは…)
 「総司」
 土方は入り口でもらった地図を広げる総司に声を掛けた。
 「お前は今日は地図係だ。俺が今から言うところを地図で探して案内しろ」
 「はい!」
 三人の行き先案内を任された総司は、はりきって返事をした。
 「おじさま、セイは? 何すればいい?」
 セイは自分も何かを任されたいと思い、目を輝かせて土方を見上げた。
 「お前はハンカチとティッシュ係だ。出せと言われたらすぐに出せるようにしておけ」
 「はーい」
 土方に言われるや否や、セイは淡いピンク色のダウンジャケットのポケットを探った。
 出掛けに近藤の妻の恒子が入れてくれたハンカチとティッシュがあるのを確認する。
 ゆうべはセイも総司も近藤の家に泊まり、土方が今朝車で近藤の家に迎えに行ったのだ。
 「最初は“カリブの海賊”だな。総司、地図を見ろ」
 土方は冊子から顔を上げると、総司に行き先を告げた。


 三人はアトラクション“カリブの海賊”に入った。通常なら蛇のようにぐるぐると長く回りながら待たされる順番の列も、 今日に限っては全くない。乗り場まで早足で歩いていけるほどである。
 暗い室内には海賊を髣髴とさせるセットが浮かび上がり、海を行くボートが静かに出航を待っていた。
 セイと総司の真ん中に土方が座り、ボートはゆっくりと水上に出る。
 最新のアニマトロニクスを駆使したこのアトラクションは、人形がまるで生きているかのように スムーズな動きを見せる。題材が題材だけに、髑髏や亡霊、乱暴な海賊など薄気味悪いものが多いが、 セイも総司も歓声を上げて楽しんでいた。土方も、初めのうちは所詮コドモの遊び場だと内心思っていたが、 見ているうちにアニマトロニクスの仕組みなどを想像し始め、子どもとは別の視点で楽しんだ。

 外へ出ると、総司が一目散に赤いクラシックカーのワゴンに向かって走り出した。チュロスのワゴンだった。土方が止める間もなく総司は 店員にチュロスを三本頼み、慌てて走ってきた土方が金を払った。
 「勝手に飛んでくんじゃねえよ!」
 財布をしまいながら土方は総司の頭をこつりとやる。
 「えへへ、ありがとう土方さん」
 しかし当の本人はこの通り、全くお構い無しである。セイに1本渡すと、土方にも差し出した。
 そんな甘ったるいものが食えるかと土方が断ると、総司は両手に一本ずつ持ってぺろりとたいらげてしまった。


 次に向かったのは“ウェスタンランドシューティングギャラリー”。
 西部開拓時代のセットに現れる的を赤外線の銃で撃つ、いわゆる射的である。ここはパスポートとは別に金を支払い、銃を借りる。
 それぞれがウィンチェスターライフルを持ち、まずはセイから撃つことになった。お子様用の台に乗り、セイは大きな銃を構えて真剣に的を狙った。 が、次々に現れる的にあたふたし、当たったのは2発だけだった。
 総司が台をどけて撃ち始めた。総司の狙いはなかなか正確だったが、引き金を引くタイミングが合わないことが多く、5発の命中。
 最後に土方の番になった。土方は徐に銃を構え、カウンターに肘を固定した。光る的を次々に撃ち抜いてゆき、10発全てが命中した。 学生時代は授業が終わった後やバイトの帰りにゲームセンターでシューティングゲームをしていたので、この程度なら土方にとってはお茶の子さいさい だった。
 10発全てが命中すると、銀色の保安官バッジがもらえる。
 「おじさま、すごーい!」
 セイはバッジを手に取り、嬉しそうにそれを眺めた。
 「まあな」
 土方は10点満点の数字が入ったスコアカードを見ながらふんと鼻を鳴らした。
 しかし、総司が上げた声に眉を顰めることになった。総司がもらったスコアカードには、5点の数字の他に、“ラッキー”の文字が 印刷されていた。この文字が入っていると、点数に係らず金色の保安官バッジがもらえるのである。
 黄金色の光を放つそれを得意そうに胸につける総司と、それを見てにこにこするセイを見て、土方は満点の自分が銀で、半分の 総司が金なのが納得いかなかった。金と銀の保安官バッジをつけた二人に挟まれて、セイはご機嫌である。


 三人は少し歩いてウェスタンリバー鉄道の線路の下をくぐり、マークトウェイン号乗り場の前に出た。
 「ここで…ポップコーンを買え、だと?」
 土方が藤堂のしおりから顔を上げると、すでにポップコーンのワゴンに総司が並んでいた。ひどく甘ったるいチョコレートの香りが 風に乗って土方の鼻先に流れてくる。
 大きなプラスティックの入れ物いっぱいにチョコレートフレーバーのポップコーンを詰めてもらい、総司はうっとりしながら それを食べ始めた。
 (こいつ、将来オンナができてディズニーランドでデートだとかになったら絶対に引かれんぞ、コレ…)
 先ほどチュロスを2本も食べたばかりなのに、総司のポップコーンはどんどんなくなっていった。


 土方は眉間に皺を寄せながら冊子とにらめっこをした。次に向かうのは…
 「あ、土方さん、これ入りたい!」
 と総司が突然足を止めた。土方が総司の指差す先を見ると、そこは“ホーンテッドマンション”だった。
 総司が持つ地図で確認すると、ここはどうやらオバケ屋敷らしい。
 「駄目だ、ここは怖えぞ。お前がよくてもこいつがよくねえ」
 土方が親指でセイを指した。
 「セイ、こわくないもん」
 一人だけ子ども扱いされ、セイはぷうっとむくれた。
 「絶対に怖くて泣くぞ」
 「だ、だいじょうぶだもん!」
 土方がいくら言ってもセイは強がりを言ってきかない。終いにはすたすたとホーンテッドマンションの入り口に入っていってしまった。
 が、その後は土方の予想通りだった。
 セイは最初の“動く壁”のところからすでに真っ青になり、ゴンドラに乗り込んでからも土方のトレンチコートの裾を握り締めて恐怖に耐えていた。 風もないの勝手にめくられる本、水晶に閉じ込められた喋る生首、幽霊たちのダンス、墓場から飛び出るゾンビ。どれもが幼いセイには 恐ろしくて仕方がなかった。最後にゴンドラへと幽霊が乗り込んでいるのを見た時は、真ん中の土方と幽霊が重なって鏡に映し出されたので、 土方が幽霊に取り付かれたと思い込んで、幽霊を必死に追い払おうとした。
 「…だから駄目だって言っただろ。ティッシュを出して鼻水を拭け」
 やっと明るい外へ出ると、土方はセイの頭を撫でながら言った。セイは鼻を拭きながらこくこくと頷き、入ろうと提案した総司が謝るのに 大丈夫だとしゃくりあげながら答えた。


 次に冊子に書かれていたのは、“空飛ぶダンボ”だった。
 「お前ら二人で乗ってこい」
 そう言って土方は二人を送り出し、自分は地図を広げて喫煙スペースを探した。しかし、だいたいどこのエリアにも喫煙スペースが 一箇所は設けられているのに、このファンタジーランドと隣のトゥーンタウンには喫煙スペースのマークが見当たらない。
 朝に近藤の家を出てから吸っておらず、そろそろ一服して落ち着きたかったのにと土方は肩を落とした。
 ダンボに乗った二人はホーンテッドマンションの恐怖を高い空へと放出し、気持ちよさそうに飛んでいた。


 「おじさまもいっしょに乗ろう!」
 「嫌だ、誰が乗るか、そんなもん」
 と問答を繰り返した果てにセイのうるうる攻撃に負けて土方が乗らされたのはキャッスルカルーセル、回転木馬だった。
 セイと土方が白い馬にまたがると、カルーセルはバンドオルガンの美しい音色に合わせてくるくると回りだした。
 カルーセルの外では乗らなかった総司がこちらに向けて“写ルンです”を構えている。デジカメでなくこのレンズ付きフィルムを持たせたのは 近藤である。扱いが簡単だし、落としても壊れないからだ。だが土方にしてみれば、デジカメならこんな恥ずかしい写真は即消去できるが、 レンズ付きフィルムではそうはいかない。後で近藤に笑われるのだろうと土方は再びがっくりと肩を落とした。


 そしていよいよセイの希望だった“イッツ・ア・スモールワールド”に乗ることになった。
 ボートの先頭に乗り、セイは顔一杯に笑顔を広げた。世界中のあらゆる言語で「小さな世界」が歌われ、各国特有の楽器で 演奏される。民族衣装に身を包んだ人形たちが明るく愉快に踊り、時にはコミカルな動きも見せた。 部屋によって異なるカラー、常に賑やかに動き続ける人形やオブジェ、多彩な衣装の人形たち。その全てがセイをはじめとする 女の子たちの目を釘付けにした。
 セイが音楽にあわせて歌う横では、土方がボートの外に手をやって水に突っ込もうとする総司を幾度となく拳骨で制していた。


 オコサマ向けのアトラクションでやや疲労を感じた土方が冊子を広げると、ここで昼食にするように書かれていた。
 土方が懐中時計を取り出してみると、12時より少し前であった。藤堂のプランの精密さに土方は驚いた。
 藤堂が示した場所は、スモールワールドの隣にある“クイーン・オブ・ハートのバンケットホール”だった。
 不思議の国のアリスをモチーフにしたファンタジックな内装で、中に入るとハートの女王に扮したキャストが出迎えた。
 トランプの兵隊やチェシャ猫、花の形をしたライトなどが、絵本で見たアリスの世界そっくりで、セイは声も出せずに見入っていた。
 料理が置いてあるカウンターの前に並び、一人ずつ食べたい物を取っていく。セイは可愛らしいハート型のフライが載っている皿を選び、 総司はハンバーグを選んだ。そして総司はさらにカウンターの最後にあったワンホールのケーキをトレーに載せた。
 「食いきれるのか、それ」
 ステーキとライスだけを載せた土方は眉間の皺を深くする。総司は頷いて、席に着くとさっさとハンバーグを平らげてケーキも完食した。 それを土方とセイが白い目で見ていたのには全く気がついていないようだった。


 可愛らしくておいしくて甘い物を存分に食べた子どもたちを連れて、土方は“プーさんのハニーハント”へと向かった。
 自分たちの背丈よりも大きな本のオブジェの中を通り、蜂蜜の壷の形の乗り物に乗る。壷はあちこちに方向を変え、 くまのプーさんの世界を踊るように巡っていった。三つある壷が、並んでいる順番をめちゃくちゃに変えて進んでいくのには、 子どもたちだけでなく土方もその仕組みがわからずに感心した。


 その次の“トゥーンタウン”もまた、子どもたちには楽しい場所だった。何と言ってもこのランドの主役、ミッキーに会えたからである。 “ミッキーの家とミート・ミッキー”で、映画の撮影中のミッキーに出会ったセイはミッキーに抱きつき、総司と三人で写真を撮った。 そして“ミニーの家”ではミニーにも会うことが出来、セイは大興奮であった。


 「…お前ら、ちょっとここで待て」
 土方はトゥーンタウンを出たところでやっと喫煙スペースを見つけて、ポケットから煙草を取り出した。
 「じゃああれ買って食べていいですか?」
 総司が指差した先には、またしてもポップコーンのワゴンがあった。
 「午前中にも食って、さっき昼飯も食ったばっかだろ。まだ食うのか」
 しかもケーキも丸ごと一つ食ったじゃねえか、と土方は心の中だけで呟いた。
 「だって、さっきのはチョコレート味だったけど、今度のはクリームソーダ味だし」
 けろりとした顔で総司は言い放った。土方は説得を諦めると財布から金を取り出して、二人に買いに行かせた。
 買い物から戻った総司とセイが仲良く並んでベンチに座り、ポップコーンをつまむ。土方はそれを眺めながら白い煙を吐き出した。 そして藤堂の冊子を取り出して、次のアトラクションを調べた。すると、
 「土方さんはきっとここで煙草タイム。総司とセイちゃんはクリームソーダ味のポップコーンに夢中☆」
 と書かれていた。
 どこまで詳しく、先を読んでいるのだ、あの男は。土方は藤堂のあまりの周到さに灰を落としそうになった。


 「そろそろ土方さんはお疲れだろうから」と前置きの上で指定されたのは、“ミクロアドベンチャー!”。
 映画タイプの、座って見るアトラクションだ。土方は藤堂の気遣いにほっとしながら座席に着いた。
 が、意外とこれが忙しかった。赤と青のフィルムが貼られた3Dメガネをつけて見る映画は、画面からキャラクターが飛び出すわ、 足元を何かが駆けていくのを空気で再現するわで、その度に左右からセイと総司がきゃあきゃあ言いながら土方に飛びついてきた。 土方はしらばっくれて目を閉じていようと思っていたのに、余計に疲れることとなった。


 そして三人は藤堂イチ押しの“バズ・ライトイヤーのアストロブラスター”へと入った。
 ディズニー映画「トイ・ストーリー」を下敷きにしたこのアトラクションは、スペースクルーザーという乗り物に乗って、 アストロブラスター(光線銃)で敵を撃っていく。三人でひとつのクルーザーに乗り込むと、総司と土方が銃を手にした。二人はどんどんと 敵を撃っていき、セイもあっちだこっちだと敵のZマークを指差した。残念ながらアストロ・ヒーローの称号に位置する99万9999点には届かなかったが、 それに近い得点を取ることが出来、総司もセイも手を叩いて喜んだ。


 そして最後に、“グランドサーキット・レールウェイ”に行くようにと藤堂の冊子に書かれていた。
 総司が一人で乗りたがったので、土方とセイが同じ車に乗った。レールの上をゆっくりと走るだけで、難しい操作の必要がない。 土方はセイを運転席に座らせて、そのハンドルさばきを見ていた。セイはアクセルをあまりふかさずに、慎重に運転しているつもりだったが、 ハンドルを切りすぎて激しくノッキングすることが多かった。その度に土方はこれが本物の運転でなくてよかったと冷や汗をたらした。


 これでやっと全ての行程が終わったと、土方は肩の力を抜いた。
 行ったアトラクションに抜けがないかと、もう一度藤堂の冊子を広げてみた。抜けはなかったが、最後のページに、
 「ワールドバザールに寄って、お土産の一つも買ってあげること。これで土方さんの好感度はマックスまでアップだよ!」
 と書かれていた。
 子ども相手の好感度などどうでもよかったが、折角藤堂がそのように書いてくれたのだから寄っていくことにしようと土方は思い、 長いストレートの左右に店が立ち並ぶバザールへと連れ立っていった。

 土方はどの店に入っても一緒だろうとタカをくくり、バザールに入ってすぐ左にある店に入った。
 が、そこは“ペイストリーパレス”、つまりはお菓子の店で、総司が山ほど菓子を抱えることになった。
 その店にはセイが欲しがるようなものがなかったので、もう一軒入ることにした。パーク最大の土産店、“グランドエンポーリアム”だ。
 しかしここではセイがミニーの巨大なぬいぐるみを物欲しそうな目で見つめてしまい、根負けした土方は一抱えもある大きなぬいぐるみを 買い与えることになってしまった。



 帰りの車の中、子どもたちは遊びつかれてすやすやと眠ってしまった。
 夕日が沈みかける光景を前にしながら、土方はバックミラーで子どもたちをちらりと見遣った。総司は菓子の入った大きな袋を、 セイはミニーのぬいぐるみを大事そうに抱えて、肩をくっつけ合って眠っていた。
 二人の口元が幸せそうに笑っている。
 土方は、こちとら運転してるのにと思いながらも、子どもたちの満足そうな様子を見て口の端を上げた。



 土方が二人を近藤の家まで無事に送り届けると、恒子が夕飯を用意してくれていた。起きた子どもたちと一緒に夕飯を食べていると、 総司とセイが近藤夫妻に今日の出来事を機関銃のようにまくし立てた。
 「そう、よかったわね」
 今回の計画の発端となった恒子がにっこりと笑う。

 「おじさま」
 夕飯を食べ終わって、帰ろうとする土方をセイが引き止めた。
 「今日はほんとにありがとう。こんどはディズニーシーに行きたいな」
 こそりとセイは土方に耳打ちした。
 「調子のいいこと言ってんじゃねえよ」
 土方はセイの頭にぽんと手を置く。
 「今度は彼氏に連れて行ってもらえ」
 そう言って土方は背を向け、ひらひらと後ろ手に手を振った。



 数日後、総司が持たされたカメラの現像が終わった。
 写真はどれも子どもたちの笑顔に満ち溢れていた。
 土方がセイと白い木馬に乗った写真を見て、皆が大笑いした。
 近藤はこの写真を引き伸ばしてまた道場の入り口に貼り出した。
 それを見た土方が藤堂を稽古で打ちのめし、とばっちりをくった藤堂はしばらく道場を休んだとか。




参考文献・参考サイト
・東京ディズニーランドガイドマップ 2008.OCT-2009.MAR
・東京ディズニーランドトゥデイ 2008 12/1-25
・東京ディズニーリゾート オフィシャルサイト
・『東京ディズニーランドで家族旅行!』 ttp://www.disneyfan.info/




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