黄金色の午後きりりと冷えた空気の季節に訪れた、たまの陽気。 神様の気まぐれかとも思えるその暖かい日に、セイは縁側に座り、繕い物をしていた。 傍らには肘をついてごろりと横になった総司がいる。 「あー・・・あったかいですねー」 総司が気の抜けた声で呟いた。 「そうですね」 セイが手を動かしながら返事をした。 「こうあったかいと、夜の巡察に行くのがいやになっちゃいますねー」 このままもう眠ってしまいたいです、と総司は大きい欠伸をひとつした。 「大事なお仕事ですから、がんばって行って来てくださいね」 運針の手を休めずにセイが言う。 「神谷さんは近藤先生のお小姓役だから行かなくていいからって・・・私だって先生のお傍にいてご用をこなしたいのに」 総司はむうっと口を尖らせた。 ふふっとセイは笑う。 そして丁度縫い終わったところでくるくると針に糸を絡め、玉止めをしてちょきんと糸を切った。 「あ、菜の花」 転がって縁側から庭を見た総司が指差す先を見れば、菜の花がセイの目に飛び込んできた。 小さな黄色い花弁が清楚に寄り添い、若々しい緑色の葉を伸ばす春の象徴。 柔らかな日差しを受け、竹矢来の足元に群生するそれを、総司とセイはにこやかに見つめた。 「菜の花のおひたし・・・ちょっと苦いけれどおいしいですよねえ」 総司がよだれを垂らさんばかりの表情で目を細めた。 「去年でしたっけ、井上先生が作ってくださったごまよごし、あれ一番おいしかったです」 セイが思い出して手を叩いた。 「あー、あれ!ちょっとお砂糖をきかせてくれて、苦さと甘さが絶妙だったやつですね」 総司はがばっと身を起こした。 「また食べたいな、源さんの作ったあれ。菜の花用意したら作ってくれるかな」 再び廊下に身を横たえ、総司が頭の後ろで手を組んだ。 「菜の花よりもお砂糖があるかどうか・・・どうしてもって言うときのために保存してあるのを、誰かさんがこっそりなめたりするから」 ちらりとセイは総司に視線を移す。 「・・・すみません」 バレてたのか、と総司は苦笑いした。 「・・・お前らな」 総司とセイの後ろ、廊下の奥の部屋から不機嫌な声がした。 ふたりがそちらを振り向くと、米神に怒りマークを浮かべた土方が、書き物の手を止めて座っていた。 「なんです?土方さん」 総司が肩越しに聞いた。 「そんなところで男同士、イチャついてんじゃねえよ」 よく見れば土方は鳥肌を立てている。 「別にそんなことしてませんよ。近藤局長の繕い物をしているところへ沖田先生が来ただけじゃないですか」 けろりとした顔でセイが言った。 そう、今は所用で出かけている近藤の小袖に破れがあったため、小姓であるセイがそれを縁側の日の当たるところで直していた。 その最中に沖田が何気なしにふらりとやってきて、日差しのうららかさに寝そべったのである。 「とにかく俺の前でぐだぐだくっつくな。気持ち悪い」 土方は心底嫌そうに眉をしかめた。 「えー、私、お夕飯まで暇なんですけど。少しぐらいここでおしゃべりしてたっていいでしょう?土方さん」 その後は巡察なんだから、と総司は首を傾げて土方を見た。 「暇なのか。・・・じゃあ俺の行灯の油さしに油入れて来い」 そう言うと土方は行灯の中から油を継ぎ足すための小さな容器を取り出し、総司に突きつけた。 「油徳利ってどこにありましたっけ神谷さん」 土方から陶製の油さしを受け取った総司は、継ぎ足す元の徳利がどこにあるかを失念してセイに尋ねた。 「物置蔵の、入って右側ですよ。沖田先生は行灯を使わないことばかりしてるから置き場もわからなくなって・・・」 セイがはぁと溜息をついた。 「神谷さん、わからないからついてきてくださいよ」 ほら、と言って総司はセイの手を引く。 「仕方ありませんね、一番隊組長なのに」 セイは引かれるままに総司と廊下を歩いていった。 総司とセイがベタベタするのを分かつために油を足す用を言い付けたはずの土方は、思惑が外れたことに肩を落とした。 が、とりあえず目の前でくっつかれるのを見ないで済んだことには満足し、再び書状をしたため始めた。 蔵に行ったふたりはすぐに油徳利を見つけたが、中身が空だった。 なので徳利を持ち、油を買いに行った。 帰ってきて油を移し変え、土方の部屋へと戻っていったが、遅え、どこで油売ってたんだ、と怒られた。 それに対し総司とセイはきょとんとした顔で、油を売ってたんじゃなくて買ってたんです、と返答した。 近藤局長付き小姓と一番隊組長が派手に怒鳴られる声が西本願寺の瓦を揺らし、その屋根で休んでいたカラスが一斉に飛び立った。 |