ハナウタ日和様主催「国語の時間ですよ!」 |
「いまから他行する。供をしろ」と土方副長に言われて付いていったら、 なんと女装しての任務を任されて。 一体どういう発想でこんな事になったのかは分からないけれど、 私を"男と見込んで"の特命。 喜んで引き受けた。 夕餉の前に、ここ床伝に来てしまったので、皆で食事をし、 伝六さんとおみのさんは衣装の準備を、 副長と斎藤先生は幹部同士で細かな打ち合わせをするとのことで、 私はひとり別室に置かれた。 緊張する。 本当に女子だと露見しないように気を配らなければならない。 沖田先生、どうか私を――・・・ 座り込んだ私はそう心の中で祈り、立てた膝の間に顔を埋めた。 かたり、後方から音がした。 ふと振り向くと、そこには沖田先生がいた。 窓の障子を開けて入ってきたのだ。 「沖田先生!」 「静かに。あぁ神谷さん、どうしてあなたは神谷さんのままなんです?」 私を見つめて、沖田先生は訝った。 「・・・先生?」 「ほら、早く"おセイさん"におなりなさいな」 「はい?」 「そこにある重ね箱を開けなさい」 横に目をやると、 いつのまにか箱が置いてあった。 言うとおりに紐を解いて蓋を取る。 すると、中からふわりと白い煙のようなものが出てきて私にまとわりついた。 「うわっ」必死になって手で振り払う。 ようやく煙が消えると、沖田先生が満足そうな顔で私を見ていた。 「綺麗ですよ、おセイさん」 「え?」 自分を見ると、女子の着物に変わっていた。 髪に手をやると、女髷ができていて月代がなく、 簪や鹿の子が手に触れた。 「さぁ行きましょう」 沖田先生が私に手を差し伸べている。 私は迷わずその手を取った。 先生が私の肩に、細長くて透明な薄布をかけた。 私の体が宙に浮く。ふわりと。 そのまま私と沖田先生は、夜空に輝く月に向かって吸い寄せられるように――・・・ 「神谷、オイ神谷!」 ふわふわと、いやぐらぐらと揺さぶられる感覚に、私ははっとして顔を上げた。 元の、床伝の一室だ。 「寝てんじゃねぇよ。着替えの時間だ。おみのさんのところに行け」 私を揺すったのは副長だった。 夢・・・。 心の奥で沖田先生を頼りきっているのが出たのだろうか。 いや、きっと先生が励ましてくれたんだ。 そして、この女装での任務を成功へと導いてくださるんだ。 まだ少々ぼやける頭を左右に振ってはっきりさせる。 さあ、行こう。 副長直々のこの特命、必ず成功させて見せる。 そして沖田先生の下へ。 帰るときには、笑顔。 "the moony" by Nacht Koyama dedicated to HANA-san |